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Comptons Most Wanted 「Music To Driveby」感想

 ついこの間Book Offにて購入した、西海岸はコンプトンのグループ、Comptons Most Wanted(以下CMW)の92年リリースのアルバム「Music To Driveby」を聴いての感想です。 

 まず、CMWについては僕の大好きなYoung Jeezyのトレードマークである「ジィーア!」の影響元とされるフロントマンであるMC Eihtについて一応は知ってはいたのですが、映画「Menace Ⅱ Society」サントラ収録の"Streiht Up Menace"とナズのmixcdで不穏なカッコよいトラックがあって、それがCMWの"Growin’ Up In The Hood"だった、くらいの程度で、きちんとCMW及びMC Eihtの作品を聴いたのは今回が初めてでした。

 アルバム全体を通しての印象は、とても音楽的なヒップホップだなぁ、という感じで、ストイックでモノトーンなものより、音数が多いものが好きな僕はすごい楽しめました。特に耳に残ったのは丸みのある暖かなベースとジャジーなホーンで、「ジャジー」といってもATCQとは違う、ビターでもの悲しい感じで、それはギャングである彼らが、ハードな人生によって培ったセンスから生み出した音楽的フレイバーなのだと思います。

 曲によってはレゲエっぽさを感じさせるものもあり、それはゆったりとしたテンポのトラックとエイトの(内容はハードでしょうが)声とフロウがわりとノンビリしているところから感じられ、怖いイメージがあったので以外でした。エイトは説得力のある低い声と軸のしっかりした緩急自在のフロウの持ち主で、ソロとして長年活躍しているのも納得です。

 そして私的にとても興味のあった「ジィ~ア」のアドリブについてですが、特に目立つものではなく、この作品を聴く限りはあまり印象に残りませんでした。

 それよりも、エイトの声の良さと生楽器をふんだんに取り入れたトラックがとても良かったです。こうした音楽的なトラックはクレジットにてキーボード、サックス、ハーモニカ、さらにバックボーカルも担当しているWILLIAM ZIMMERMANという人によるところが大きいのではないでしょうか?90年代前半のヒップホップは音を削ぎ落としたクールなものが多く、そこが私の音楽的好みからはちょっと外れるため、2000年代ものに比べて好きな作品が少ないのですが、このアルバムはDr Dreの「Chronic」、Snoop Doggy Doggの「Doggystyle」、UGK の「Super Tight」等と同列のミュージシャンを多用した90年代ヒップホップとして私的お気に入りに加わりました。

最後に特に気に入った曲をいくつか貼らせていただきます。もしよかったら聴いてみてください。


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 どことなくレゲエフレイバーを感じさせるゆったりとしたトラックで、サビには声ネタ・スクラッチ・歪んだギターを取り入れたHIPHOPらしいHIPHOPです。


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 上記と同じギターを取り入れたこちらはLudacrisのラップ巧者っぷりが嫌でも分かる1曲。元ラジオパーソナリティ―だというのも納得の名人芸が聴けます。


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 上記2曲にてサンプルされた本曲はスケールの大きな12分に及ぶ長尺曲で、おだやかに始まり終盤にかけてストリングスとエレキギターが激しく鳴り響く、エッジの立った曲です。


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 アルバムにて1番グッと来たのが本曲で、聴いた瞬間「Boyz N Da Hoodのイントロ曲の元ネタだ!!」と興奮したのは僕が2000年代ヒップホップ愛好家だからです。

 問答無用のドープな曲は世代・地域を問わずB-BOYを滾らせます。

 「Boyz N Da Hood」とはバッドボーイサウスが送り出した南部出身の4人組グループでして、2005年にアルバムデビューを果たしており、グループ名がイージー・Eの有名曲"Boyz-N-The-Hood"からきているだろうこともあり当初は「南部版N.W.A」なんて形容されていました。そのデビューアルバムにおける一発目においてこのCMW曲がネタに使われたのは、これまたそのイージー・Eの曲名が由来であろう映画「Boyz-N-The-Hood」においてCMWの「Growin’ Up In The Hood」が使用されていたことからきているのでしょう。小粋なHIPHOP遊びですね。


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 こちらが上述のイントロ曲でして、私的にはヴァースに入る前のワサワサした野犬のようなワイルドなシャウトアウトパートが痺れるカッコよさで、ラップパートでは特に一番手のBig Geeのドスの効いたラップ&フロウと最後に出てくる飄々としたチンピラ風情のJody Breezeにグッときます。


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おどろおどろしいダークな、ラッパーを選ぶトラックですが、低く重い声とどっしりとしたフロウのエイトにはマッチしています。サビをホーンに任せる構成もクールです。


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サビで楽器が目立つものでおすすめなのはこの曲で、上記のCMWの曲もこのATCQの曲のどちらも「ジャジー」と形容できますが、感触は異なります。ただどちらもドープです。


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 アルバムのラストを飾るのはフニャフニャ・ニョロニョロしたリラックス・ビートにのせて幅広いアーティストに向けてシャウトアウトする本曲で、彼といえばDJクイックとのビーフが有名なので、てっきり好戦的なMCだと勝手に思っていたのですが、それは勘違いだったようで、92年当時としては珍しいくらい幅広くリスペクトを示しています。何人か挙げてみると、アイスキューブ、ヨーヨー、King Tee、Eスウィフト、サイプレスヒル、スヌープ、DJプー、トゥーショート、ショックG&2Pac(デジタルアンダーグラウンド)ら西海岸勢に加えて、南部はヒューストンのスカーフェイス、ブッシュウィックビル(Geto Boys)とマイアミのミスターミックス(2 Live Crew)、東は(きちんと英語が聞き取れないので定かではありませんが)ギャングスタ―、メインソース、ノウティバイネイチャー、DJポロ&クールGラップといったところで、とても広い交友関係を持っているようで、これは今のようにネットが発達していなく、コネクション作りやコラボのハードルが物理的に大変だった時代としてはすごいことだと思います。どうしてもラッパーは経済的・地縁的に地元からなかなか出ることはなく、それゆえ視野が狭くなりがちですが、(逆にそれが個々の独自の音楽を生み出す要因かもしれませんが)彼はそうした狭く収まるタイプではないようで、その特性が本アルバムの生楽器の取り入れや声ネタのチョイスの幅広さにつながって、このような長く愛されるアルバムを生み出せたのではないでしょうか。