big fan of 2000年代Hiphop

持っているCDと雑誌を管理するための記録ブログです。

Snoop Dogg"Let's Get Blown"

 2004年末にリリースされたアルバム「R&G(Rhythm&Gangsta)」に収められ、シングルカットもされた本曲は、NeptunesによるトラックにSnoopとPharrellという才気にあふれながらどこかおっとりとした雰囲気のある2人によるラップ・歌がマッチした、リラックスしたラップソウル曲です。

 当初この曲のサンプル源がSlaveの"Watching you"だと知った時、いったいどこが使われているのか分かりませんでした。唯一分かったのは歌いだしのSnoopのフレーズ・メロディだけで、トラックには"Watching You"を見つけることはできませんでした。

 これはひょっとすると、かつてChad Hugoが、自分たちはレコードをサンプリングするというよりそれをずっとループさせてインスピレーションを貰って、コードを変えて新しい曲に仕立て直したりする、と語っていたので、僕の想像ではネプとSnoopが原曲の音像からインスパイアされて本曲を作り、インスピレーション源に対するリスペクトをこめてフレーズ・メロディをちょこっと入れてクレジットに載せたのではないかと思います。

今回のアルバムが「R&G」と付けられているように、本アルバムは歌心あふれる作品ですが、Snoopは本当に歌が好きで、70、80年代のアーティストに対して、「あの頃のアーティストは全員好きだよ。Curtis MayfieldAl green、Chi-Lights、Dramatics…もう全員だよ。」と言っています。

 本曲は"Watching You"同様ぬくもりを感じる穏やかなもので、楽器の音色・ラップ・歌のそれぞれが上手く調和しており、全体的に聴き心地の良い仕上がりです。具体的にはSnoopのラップ、ファレルと女性の歌(Keyshia Coleですが、彼女らしさは控えている)、ポコポコ、コツコツしたパーカッション、シルクのようなベースが総体として心地よい音像を生み出しています。

 こうした音像にきちんと合わせて、MusicVideoも良い意味でぼんやりした処理を施された、レイドバック感の強い、ただただ楽しそうなパーティー風景で、70、80年代のDiscoパーティーに通ずるVibeを感じます。同じ70、80年代Vibeでも"Signs"の方ははつらつとした元気のある曲で、こちらも本曲同様シングルカットされたのも納得の良曲です。僕はこの2曲が昔のSoul・Funk曲に触れるキッカケとなりました。

 Snoopのアルバムは毎回Soul・Funkフレイバーが注入されているので、温故知新のHiphopにあっては理想的なアーティストだと思います。かつてbmr誌2008年4月号において「Snoopが誘う、素晴らしきソウル・ファンクの世界」という6ページにわたる本当に素晴らしい特集記事がありました。

 余談ですが、僕は2000年代のbmr誌とBLAST誌(具体的にはbmrはNo.267号以降、BLASTは伊藤雄介さんが編集長になってから)に育ててもらったと強く思っており、上記の雑誌のおかげでこの音楽が大好きになったので、実際に音楽をクリエイトしてくれた2000年代に活躍していたアーティストと同様に上記雑誌のライター・編集者の方を大いに尊敬しており、いつか直接お会いして感謝の意を伝えたいなと思います。

DPGC"Real Soon"

 2005年末にSnoop自身のレーベル、Doggy Style Recordsからリリースされた「Welcome To Tha Chuuch-Da Album」の先行シングルとして発表された本曲は、クリップスの創設メンバーの一人であり、強盗殺人の罪で死刑が確定していたものの、自らの過ちを悔い、若者が自身と同じ道を辿らないよう、様々な形(ex絵本等)で平和運動に尽力していたStanley Tookie Williamsの死刑への反対・中止嘆願運動を自身が中心となって働きかけていたSnoop Doggが、その活動の認知・普及の推進のためと、Tookieと同様に塀の中にいる同胞に向けての応援の意味を込めて作った中身の濃い曲です。

 結果としては彼らの努力むなしく、Tookieは同年12月13日に刑が執行され、この世を去ってしまいました。彼の死はアフリカン・アメリカンコミュニティーにとって、たとえ過去に殺人を犯してしまったとはいえ、人生を立て直した偉大なロールモデルであったゆえに、その喪失による影響は非常に大きいと思います。

 以上がこの曲の持つ背景ですが、その内容もさることながら、楽曲としても原曲のHarold Melvin&The Blue Notesの「Hope That We Can Be Together Soon」の持つやさしさと暖かみとDogg Pound Gangsta Cliqueならではの「G」感も入って、甘さの中にピリッと辛味を効かせた、21世紀型のSoul・Funk曲です。

 原曲自体が素晴らしいテンダーSoul(テディペンだけに)で、ProのBattlecatがピックアップしてきたのか、それとも事あるごとにSoul愛を語り,鼻歌るSnoopによるチョイスなのか分かりませんが、サウンドのみならずそうしたコンセプトまで「弾きなおした」という点で天晴であります。そしてそこにドゥンドゥンと低音を効かせたHiphopのオケにして、いつもの彼らのスタイルを貫き、4人それぞれの味のあるラップ・歌がのった、良いトラック+カッコいいラップ・歌=良い曲、という至極シンプルな結果となりました。

 中でも私的に一番グッときたのはNateの歌で、特に後半のアドリブ的なパートが僕の大好きなR.Kellyに勝るとも劣らない、伸びやかで抑揚の効いた、クールなものとなっています。

 またこの曲のMusicVideoは刑務所を舞台に囚人達や面会に来る人の様子を描いたもので、そこからは彼らと彼らを待つ人々の抱える寂しさや辛さが映像(モノクロなのがまた良い効果を生んでいる)から滲み出ており、語弊のある感想かもしれませんが美しいと感じました。もちろん彼らは何らかの罪を犯したが故に収監されているわけで自業自得でとも言えますが、そうせざるを得ない環境というのがあるのかもしれません。この曲の存在はそうした事を考えるキッカケになるでしょう。

 この曲はその背景や楽曲の内容・MusicVideoの全てがリンクして、サウンドとしての「音楽」以上の「芸術作品」として後世に伝えるべきものだと思います。「The Rap Year Book」というHiphopの歴史上重要な曲を1年につき1曲のスタイルで紹介・解説した本がありますが、1曲という縛りがないのであれば絶対に入れるべきであり、Hiphop及びアメリカ社会にとって目を向ける・耳を傾けるべき作品だと思います。

 

 

 

 

 

 

 

Play-N-Skillz"Are You Still Alone"

 Play-N-Skillzはラテン系のJuan(兄)とOscar(弟)のSalinas兄弟によるプロデューサーデュオで、メインストリームシーンにはLil Flipの2004年作アルバム「U Gotta Feel Me」において"Dem Boyz"等数曲を手掛けたことで注目を浴びました。そんな彼らがプロデューサー兼ラッパーとして2005年に発表したアルバムが「The Process」であり、内容としてはサウスフレイバーの曲に加えて大ネタを使った耳なじみの良いポップなものまでバラエティに富んでおり、彼ら自身のラップも含めて彼らの持つ色々な面を知ることができます。

 今回紹介する曲は大ネタ・ポップサイドにあたるもので、Dramaticsの77年のスロウバラード"Ocean Of Thoughts And Dreams"のギターフレーズを早回ししてループさせたシンプルなものです。

 正直、ここで聴かれるPlay-N Skillzの2人のラップに際立った特徴は無く、特筆すべきことはありませんが、早回しして原曲よりも切なさを増したトラックにHookを担当するラテン系のFrankie Jの甘酸っぱさと青さを感じさせる爽やかな歌声がマッチして、名バラードである原曲の使用に恥じない佳曲に仕上がっています。

 ラテン系の人はアフリカ系の人に比べて、濃厚でDeepな歌声は中々出せませんが、彼らには独特の「青さ」を感じさせる歌声という特質があるので、曲調によってはアフリカ系の人よりもDopenessを感じさせることがしばしばありますが、本曲はその好例だと思います。